当科の紹介
肝臓疾患・診療実績
INDEX
主な対象疾患
1)B型肝炎
B型肝炎ウイルス(HBV)感染症は、急性肝炎、無症候性・非活動性キャリア、慢性肝炎・肝硬変、肝癌、再活性化など、様々な病態となります。本邦のHBVキャリアは約130万~150万人と推定されており、その主な感染経路は母児間感染と幼少時の水平感染です。1986年からの「B型肝炎母子感染防止事業」による感染防止処置が行われており、また2017年からのuniversal vaccinationにより、キャリアは減っていくことが予想されます。通常、成人の初感染では急性肝炎のみで終息しキャリア化はまれとされていましたが、近年は遺伝子型Aの成人感染による慢性化が問題となっています。
現在の治療でHBVを完全に排除することはできないため、HBV感染の治療目標は免疫もしくは抗ウイルス薬によりHBVの低増殖状態を維持することです。当院では、B型肝炎治療ガイドライン第3.4版に基づき、病態に応じた治療および肝発癌に対するフォローアップを行っております。
2)C型肝炎
C型慢性肝炎はC型肝炎ウイルス(HCV)が肝臓に持続感染することで炎症を起こす疾患です。肝細胞の破壊・再生が繰り返され、肝線維化が進展し肝硬変に至り、肝細胞癌を高率に合併します。本邦のHCV感染者は約100万~150万人と推定されています。
C型肝炎の治療目標は、HCV持続感染による慢性肝疾患の長期予後の改善のため、肝発癌ならびに肝疾患関連死を減らすことであり、そのために抗ウイルス療法を行いHCVの排除を目指します。当院では直接型抗ウイルス薬(DAA)併用によるインターフェロンフリー治療を行い、またHCVが排除された後も肝発癌に対するフォローアップを行っています。
3)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)/ 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
NAFLDとは主にメタボシックシンドロームに関連する諸因子とともに、組織診断あるいは画像診断で脂肪肝を認める病態です。NAFLDのうち、進行性で肝硬変や肝癌の発生母地にもなるものはNASHとされます。治療は生活習慣の改善、基礎疾患・合併症の治療となり、当院では糖尿病代謝内分泌内科や脳神経センター・循環器センターの医師と連携して診療を行っています。
(日本消化器病学会・日本肝臓学会 編 NAFLD/NASH診療ガイドライン2020 改訂第2版)
4)肝硬変
肝硬変とは、肝臓全体に再生結節が形成され、再生結節を線維性隔壁が取り囲む病変と定義され、肝疾患の終末像です。病院は慢性ウイルス性肝炎、アルコール性肝疾患、自己免疫性肝疾患が代表的疾患であり、肝細胞が慢性に持続的に傷害されることによって起こります。近年C型肝炎による肝硬変の比率が減少し、アルコール性や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)によるものの比率が増加しています。
肝機能が保たれており症状がほとんどない代償性肝硬変と、肝性脳症、黄疸、腹水、浮腫、出血傾向など、肝不全に起因する症状が出現する非代償性肝硬変に分類されます。
肝硬変では以下のような様々な病態が引き起こされます。
①門脈圧亢進により、側副血行路が生じ食道・胃・直腸に静脈瘤を引き起こしたり、脾腫が生じ汎血球減少症を引き起こしたりする。
②門脈圧亢進と血清アルブミンの低下などにより腹水が生じ、有効循環血漿量の低下により腎血流が低下し、体液・電解質異常を引き起こす。
③腸内細菌により産生されるアンモニアなどの毒性物質が肝臓で代謝されず血液脳関門を通過し、肝性脳症を引き起こす
④肝細胞癌の発生の危険性が高くなる。
これらの病態の早期発見・コントロールのために、定期的な血液検査、内視鏡検査、腹部エコー・CT等を行い、必要に応じて治療を行います。
5)肝細胞癌
●診断
肝腫瘍マーカー(AFP, PIVKA-Ⅱ, AFP-L3分画)、dynamic CT、dynamic MRI、腹部超音波で診断します。ステージ(進行度)の決定のため、胸部・頭部CTやFDG-PETも行うこともあります。
●治療
当院では肝癌診療ガイドライン2020年版に基づき、キャンサーボード(週1回の消化器内科・消化器外科・腫瘍内科・放射線科医師によるカンファレンス)において、ステージを決定し、ガイドラインにおける標準治療を行っています。
①外科手術:消化器一般外科で行います。
②ラジオ波焼灼術(RFA):放射線科で行います。
③肝動脈化学塞栓術(TACE):放射線科で行います。
④化学療法:腫瘍内科で行います。
⑤肝移植:当院では行っていません。移植可能施設にご紹介します。
(日本肝臓学会編 肝癌診療ガイドライン2021年版)